2020.03.04 COLUMN

アパレルの余剰在庫はどうして生まれるの?

by 深地雅也

こんにちは、深地です。

先週の出来事ですが、上記のような動画が回っておりました。大元の動画を流していたのは下記のWebサイトですね。

How the UK’s fast fashion habits are polluting a country halfway around the world

ファストファッションが原因による使い捨て文化がゴミの山を築き、ガーナでは悪臭と廃棄物によって汚染が進んでいるというもの。大量生産・大量消費の権化のようなファストファッションブランドは、このようなアパレル製品の廃棄物問題の際にすぐ槍玉に挙げられます。

2015年末に、「ザ・トゥルー・コスト」という映画を見て、この事実を知った人も多いのではないでしょうか。内容はアパレルの廃棄物問題だけではなく、バングラディシュのラナ・プラザという縫製工場の倒壊と、工場内の劣悪な労働環境にも触れています。これらを引き起こした原因がファストファッションではないか?と糾弾する内容のようにも受け取れます。

しかし、このアパレルの廃棄問題はファストファッションのせいだけではありません。他にも廃棄を生み出す原因はたくさんあるのです。

 

店頭展開する限り生まれる「フェイス在庫」

Charisse Kenion

アパレルの店頭を運営しておりますと、シーズン終わりに確実に発生するのが「フェイス在庫」。どれだけ在庫を残さず販売したとしても、店頭を空っぽにする訳にはいきません。シーズンが切り替わるタイミングで、新商品を徐々に投入し、残った商品をセールで捌く努力もしますが、この段階で100%消化するのはほぼ無理でしょう。つまり、仕入れや生産に入る段階で余る事が前提になっているのです。

 

ビジネスモデルが原因?ラグジュアリーブランドの廃棄問題を紐解く

以前にも書きましたが、ラグジュアリーは廃棄が前提のようなビジネスをしていましたね。こちらとはやや問題が違いますが、店舗があると、ビジネスの構造上どうしても在庫が発生してしまう訳です。名古屋には完全に商品を売りきって2ヶ月近く店舗を閉めてから次のシーズンに臨むセレクトショップもありますが、そんなショップは業界にはほぼ無いのです。

 

参入障壁の低さが原因の「供給過多」

アパレルは参入障壁が低いと言われていますが、これは具体的にどういう事でしょうか。例えば、古着をアメリカで買い付けて、居抜きで店舗を出店する。または、韓国の東大門で商品を仕入れてオンラインで販売する。これ、どちらも新規参入ですね。このようにイニシャルコストを抑えながらの新規参入は、理論上は可能です。

その他、最近では参入障壁を下げるサービスが様々生まれてきています。資金調達の為のクラウドファンディングや縫製工場とマッチングしてくれる上に、小ロットで生産を可能にしてくれるサービスも充実し、結果、誰もが簡単にブランドを作れる時代になりました。

しかしこの結果、潤沢に利益をあげられない事業者が増えたのも事実です。作っても売れなければ在庫の温床になります。厄介なのは、全く売れない訳では無い時です。出店してしまえば多少なりとも売れる事はありますし、ファンが付く事もあります。しかし、そのせいで撤退するタイミングを遅らせてしまい、在庫を残しながらズルズルと延命してしまうブランドも存在するのです。供給過多は何も、ファストファッションや大量生産だけの問題ではないのです。

 

選択肢の増加から消化率が低下

供給過多から市場には選択肢が山ほど増えました。1990年代にはSPAのプロパー消化率は9割を超える事も珍しくなかった、という事例に対して、今では50~60%程度しかないと言われていますし、もっと低いブランドも多々あるでしょう。特に、昨今持て囃されているECは、消化率が店頭より下がる傾向にあります。その結果、オンライン専業の事業者は在庫を捌く為、セールを乱発します。これも消費スピードを促進している原因ではないでしょうか。ファストファッションだけが消費サイクルを促進している訳ではなく、アパレル各社の問題でもあるのです。

大手アパレルは消化率が下がってもアウトレットに商品を投入します。アウトレットも一度出店してしまうと売上を作らなければなりませんので、アウトレット専用商品を作り出し、在庫は更に増える事になります。こうやって、大手アパレルは在庫を大量に抱える事になりました。中には、アウトレットに出品する事を見越して在庫を余分に積んでおき、シーズン中は倉庫で商品を眠らせたまま、シーズンが終わった後にアウトレット販売するブランドもあるのです。それでも捌き切れなかったものは「在庫処分屋」と呼ばれる業態に日々流れ、都心でお買い物をする人は全く寄り付かないような商圏で格安で販売されています。こういった事は多くの人が与り知らないところで毎年、大量に取引きされています。

 

※プロパー消化率…仕入れ在庫全体に対して定価で販売できる割合

 

最適解は何なのか?

現状、最適解は無いと考えています。産業構造の問題なので、生産量を抑えたところで生地や資材、糸は余ります。暫定的には、アパレル各社は規模を追わず利益率重視に徐々にシフトし、作った物をしっかり売り切るという当たり前の事が最重要課題でしょう。

個人的な見解を言うのであれば、リユースや在庫処分屋のようなオフプライスストアは一つの解なのではないかと思いますし、ファストファッションのようなグローバルSPAの寡占化が進んだ方が生産量は適正化されていくのではないか、とも思います。アパレルの倒産件数が4年ぶりに増加したというニュースがありましたが、先述したように国内では参入障壁が下がっているのに対して寡占化が進んでいますので、倒産が増えるのもやむを得ないでしょう。何をもって最適なのかは議論が分かれますが、負け組の数を減らす事を目的にするのであれば、寡占化により参入障壁が上がる事は必要だと考えています。


筆者はエシカル・サステナビリティを推進する人間ではありません。ユーザーが低単価の商品を求めるのは止められるものではありませんし、プレタポルテ(既製服)という概念が生まれた時から、大量生産に向かうのは既定路線だとも思っています。ただ、間違った認識のまま自己満足の正義を振りかざしたところで、誰の幸せにも繋がらないのは一業界人として見たくはありません。声の大きい人が問題提起する事は、多くの人が考えるきっかけになる良い機会です。ですが、「きっかけ」と「煽動」は全く違うものです。筆者の書いている内容が全て正しいとも言えませんが、どうかこれを読んだ方々が、ただただファストファッションを糾弾するのではなく、建設的な議論を目指してくれる事を切に願います。

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