2018.12.04 INTERVIEW

素材を知る=人生が豊かになる。老舗テキスタイルメーカー代表が目指す工場の在り方

by STYLE it.編集部

アパレル・IT業界で働く人々の働き方・想いを紹介していく連載「私のファッションスタイル」。第2回は、1887年創業の繊維樹脂製造メーカー【三星グループ】の代表取締役社長・岩田真吾さんにインタビュー。2017年には代官山に「小さな工場」として新しいショールームをクラウドファンディングを使ってオープンしたり、使い手と作り手の距離を縮めたりと、努力を続けている岩田さんから、事業継承から現在の作り手が抱える課題についてお話を伺ってきました。

27歳で家業を継いだ5代目社長

- 簡単に事業の内容を教えてください。

三星グループは岐阜県羽島市にある1887年創業の繊維樹脂製造メーカーで、素材の染色や風合いを引き出す染色整理業を行なっています。羽島市は、長野県から流れてくる木曽川の下流域に位置していて、繊維に色をつけたりウールの表情の変化を出したりするために必要な水が豊富な、毛織物の産地です。今までは生地を作って織ったり編んだりして、アパレル会社さんに販売することがメインだったのですが、最近はストールやオーダースーツなど、ユーザーに直接素材の良さを伝えるような事業にもチャレンジしています

 

- なぜ三星グループの代表になったんですか?

実は、私のひいひいおばあちゃんが創業したメーカーなんです。なので、代々家業として事業継承をして私が5代目になります。大学進学で上京し、新卒で三菱商事に入社。その後、ボストン・コンサルティング・グループに転職し、20代後半に自分で主体性をもってリスクをとってチャレンジしていくことの価値に気付きました。ベンチャーを立ち上げるか家業を継ぐことのどちらがユニークかを考えた時に、後を継ぐというのも面白いのではないかと思い、27歳で継ぐ決意をしました。

 

- 後を継ぐなんて選択はしたくてもなかなかできないですもんね。27歳という若さで決断をしたのはすごいですね。

元々、ちょっと背伸びしたいとか、チャンスがあったら挑戦したいという性格だったので(笑)。成功させる気で挑戦をしても、タイミングや運で成功しないこともあるじゃないですか。でも、若いうちであれば何度でもチャレンジできるだろうと思ったので、27歳のときにリスクを取りました。

 

“知る”ことは、人生を豊かにすること

- 家業を継いで、意識が変わったことはありますか?

洋服を着る際、素材を意識するようになりましたね。今の時代、服を選ぶ時に素材を意識することはほとんどないと思うんですけど、目以上に体に触れるモノじゃないですか。五感でいうと触感の部分を服が担っている中で、実はその部分って重要なんですよ。例えば、ワインが好きな人は飲む前に色の濃さをみたり、飲み方やグラスの選び方、食事との相性にもこだわったりします。更に、どんな人が作っているのか、というところまで興味を持って知っていくと、同じ1000円のワインでも、何も知らない時に飲んだワインと知ってから飲むワインとでは楽しみの価値が違います。そして、それはとても豊かでいいことだなあと思っています。

そういう意味で、代官山のお店では、布の触り比べをしてもらって、一見真っ黒で同じような生地も感触や重みが違ったり、表面の滑らかさ、伸びが違ったりと感じ方が違うことを実感してもらおうと考えています。そういうことを丁寧に伝えていくことで、使い手も「こういうシーンだったらこういうのがいいかな、こういう服がいいかな。」と考えることに繋がり、より豊かな経験になればいいなと思っています。

 

使い手と作り手の距離が遠いアパレル業界

- アパレル業界が抱える課題はなんだと思いますか?

作り手と使い手が離れている業界だと思います。“食”はもう少し近くて、農家さんの様子も料理人のイメージも湧くのに、“服”は縫製をしている人もあまりイメージが湧かないだろうし、布作りや羊飼いなんて未知の世界なんですよね。その中で、使い手と作り手の距離を縮めるためにいろんなレイヤーの関係者が尽力すべきだと思うし、そうでなければ作り手側がいなくなってしまいます。「世界のどこかで作られていればいいんじゃないか。」とも言えちゃうんですけど、日本には、着物で何百年、洋服でも100年以上の歴史を持っていて、“地域の気候風土に合わせた技術や技を引き継いでいく”ことにも価値があるんじゃないかと思います。

その中でも、作り手の顔が見える方が、使い手に無形の価値を与えるということを、伝えていきたいです。素材を作る作業は、サプライチェーンの川上の方なので、最終的にどんな方が使ってくれているのかって分かりづらい。BtoBの世界はやって当たり前、納期に間に合わせたり品質は担保したりするのは当たり前なので、ありがとうって言われる機会が少ないんです。作り手・使い手の顔がお互い見えることで、作り手にとってはモチベーションになるし、使い手にとっては無形の価値を感じられるし、双方にとっていいことだと思うんです。なので、今は双方の距離を近づけていく努力をしています。

 

- 具体的にはどんなことをされていますか?

まずは使い手に知ってもらうことが大切だと思うので、webを活用して情報を発信して行くことが第一。それでもいきなり工場に行くのはハードルが高いと思うので、気軽に代官山のお店に来ていただきたいです。お店では実際に工場で使っていた道具などを使用してリノベーションをしているので、雰囲気も伝わると思うし、布の触り方・感じ方を知ってもらうことで興味を持ってもらえると思います。その上で、工場に足を運んでいただける機会があったらいいなと思っています。どんな人が作っているのかをリアルに感じてもらえれば嬉しいです。新幹線で東京ー羽島間は2時間程度なので、日本のものづくりを感じてもらって、豊かな川や川魚を食べてもらって、ものづくりと背景を含めたものを感じてもらえれば、帰った後も豊かな生活になるんじゃないかなって思っています。

 

- 実際に見学をされた方の反応はいかがですか?

今はどちらかというとプロや学生さんが見学にくることが多く、「布作りってこんなに大変なの?」といった反応が多いですね。機械化されてるイメージだと思うんですけど、これだけ1枚1枚個性がある布をつくるとなると、風合いを出す工程など人の感覚が重要になります。見学後は、「もっと洋服を大事にしようと思います。」とおっしゃる方が多いですね。

 

地方から発信をし続けることが大切

- 今後の目標を教えてください。

事業継承は必ずしもしなくちゃいけないものではないけど、面白いものだということを伝えていきたいです。事業を引き継ぐことは、ベンチャーを立ち上げるのとは違った苦労や面白みがあります。今全国でさまざまな事業承継者が発信をし始めているので、仲間と一緒に切磋琢磨しながら日本の活性化に協力していきたいです。

もうひとつ、性別に囚われないフラットな世の中にするためのサポートもしていきたいです。元々女性が立ち上げた会社ということもあるんですけど、地方は都市部に比べて女性やLGBTに対する情報が少なく、まだまだ正しい理解が浸透するには壁が高いと感じています。私は偶然にもいろんな人にお会いする中で、性別に関することはフラットなものだと気づかせてもらえたので、壁を無くすために地方からも発信していきたいと思っています。まだ途中なんですけど、就業規則を変えたりすることで、知ってもらったり理解してもらったりする機会を増やしていきたいです。

 

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家業を継ぐという、なかなかできない経験をしている岩田さんだからこそ見える物や感じていることを教えていただきました。私自身生活をしていく中で、素材を作っている職人さんを思い浮かべることはほとんどありませんでしたが、お話を聞いて、工場の様子をSTYLE it.で紹介することで、私も使い手と作り手の距離を近づけるお手伝いができればな、と思います。

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